「経理担当者が突然辞めた!」そんなとき社長が冷静に取るべき初動対応とは?

ある日突然、経理担当者から「今月末で退職したい」と告げられたとしたら、経営者としてどう動けばいいでしょうか。とりわけ中小企業の場合、経理業務を一人の担当者に集約しているケースが多く、退職による影響は非常に大きいのではないでしょうか。

請求書の発行ができない、給与計算の処理が止まる、取引先への支払いが滞る、会計ソフトへの仕訳入力が手付かずになってしまうといった問題が一気に表面化し、社内も社外も混乱に包まれてしまう可能性があります。そして最も厄介なのは、経理担当者の業務内容が「見えない」ことで、何がどこまで進んでいたのか把握すら困難になる点です。

本記事では、経理担当者が辞めたときに社長が最初に取るべき3つのステップを、実務の視点から解説します。慌てずに業務を継続させるための初動対応、そして今後の経営を安定させるための体制作りまでを、具体的にお伝えしていきます。


目次

まずは現状把握から:経理業務の全体像を可視化する

経理担当者が退職を申し出た、あるいは突然退職してしまった。そうした状況で最も重要なのは、「いま何の業務が、どこまで進んでいて、何から手をつけるべきか」を可視化することです。経理は業務量も複雑性も高く、担当者の頭の中にしか情報がない状態では、混乱が広がる一方です。


どんな経理業務が止まるのかをリストアップする

最初にやるべきことは、経理業務全体を棚卸しして、どの業務が今後止まりそうか、緊急性が高い業務は何かを明確にすることです。

経理業務は非常に幅広く、日次、週次、月次、年次といったサイクルで多くの処理が行われています。具体的には以下のようなものがあります。

  • 会計ソフトへの仕訳入力
  • 取引先への請求書発行と入金確認
  • 仕入先等の業者への支払い処理
  • 経費精算と領収書の整理
  • 給与計算と振込手続き
  • 税理士や会計事務所への資料提出
  • 月次の試算表作成や資金繰りの確認
  • 社会保険料や労働保険料、源泉所得税や住民税の納付
  • 年末調整や決算対応などの年次業務

これらをすべて列挙し、どれが今すぐ止まってしまうのかを洗い出してみてください。特に給与計算や支払い処理などの「資金の支払いに関わる業務」は、遅延が企業の信用に直結するため、最優先で対応すべき対象となります。

また、どの業務が定期的なものか、どの業務は臨時対応か、という視点での分類も重要です。業務をグループ化することで、対応の優先順位が自然と浮かび上がってきます。


会計ソフトや業務マニュアルの所在を確認する

業務のリストアップが終わったら、次に確認すべきは「情報へのアクセス権」です。経理担当者が業務を抱え込んでいた場合、会計ソフトへのログイン情報や、請求・支払いのルールが社内に共有されていないことも多々あります。

まずは以下の情報がどこにあるかを確認してください。

  • 会計ソフトのログイン情報(freee、マネーフォワード、弥生会計など)
  • 銀行口座インターネットバンキングのログインIDとパスワード
  • 請求書作成ツールの操作権限
  • 紙の帳票や経理書類がどこに保管されているか
  • マニュアルや業務手順書の有無

これらの情報が把握できない場合、たとえ社内に人員がいても作業を引き継ぐことはできません。また、クラウド型の会計ソフトを利用している企業であれば、アカウントへのアクセスだけでなく、退職した旧担当者のアカウント削除などセキュリティ面の対応も必要になります。

可能であれば、退職する本人と一定の引き継ぎ期間を設け、最低限の業務マニュアルを整備してもらうことが理想的です。ただし、すでに退職してしまっている場合は、過去のメール履歴や会計事務所とのやり取りから情報を集め、外部から業務内容を逆算して把握する必要があります。


社内で最低限の業務継続体制を一時的に組む

情報がある程度整理できたら、次に考えるべきは「誰がどの業務を担うか」です。全業務をすぐに社内で対応するのは現実的ではないため、最低限の継続体制を構築することが求められます。

総務部門に一部の処理を任せる、過去に経理経験のある社員を臨時で担当させるなど、社内リソースを活用して最低限の業務を維持します。経営者自身が対応せざるを得ないケースもありますが、その場合も業務の全体像を理解したうえで、支払い処理や給与振込などの最重要業務に限定して対応することが現実的です。

この段階で重要なのは、「全てを完璧にこなす」ことではなく、「企業活動を止めない」ことです。人材が補充されるまでのつなぎ期間を乗り切ることが最優先であり、そのためのリソースの割り振りと、短期的な業務のスリム化が必要となります。

緊急の経理業務だけを選別して即対応する

経理担当者がいなくなったことで、バックオフィス業務の大半が一時的にストップしてしまう可能性があります。しかし、すべての業務を一気に復旧させようとすると、かえって混乱を招きます。ここで重要なのは、すべての業務を対象にするのではなく、「止めてはいけない業務」だけを特定し、最優先で対応していくことです。限られた時間と人員の中で、優先順位を明確にし、実行可能な対応を一つずつ積み重ねることが、事態の沈静化につながります。


支払い・請求・給与など「止められない業務」を特定する

会社の資金繰りに直接関わる業務は、どのような状況であっても止めるわけにはいきません。支払いの遅延は取引先との信頼関係を損ない、給与の未払いは従業員のモチベーションと生活に影響します。また、請求処理が遅れれば、入金が遅れ、会社のキャッシュフローに悪影響を与えることになります。

特に優先度が高い業務は以下のとおりです。

  • 従業員への給与計算と支払処理
  • 取引先への支払業務(外注費、仕入代金など)
  • 顧客への請求書発行および入金管理
  • 税金や社会保険料などの公的支払手続き

まずは次の給与支給日までどれぐらい猶予があるか、取引先の締め支払日がいつか、税金の納期限がいつかを確認し、それに向けた処理を優先的に進める必要があります。多くの企業では、これらの業務が月末や月初に集中する傾向があるため、スケジュールを一度紙に書き出し、業務の優先順位を可視化することが効果的です。

仮に一部の業務に遅れが出ても、取引先や従業員に対して誠実に説明し、調整を依頼することで、信頼を維持することは可能です。最も避けるべきなのは、何も伝えずに処理が滞ることで、相手に不信感を与えてしまうことです。


税理士・会計事務所など外部パートナーに一時的に頼る

社内だけで緊急業務をこなすのが難しい場合、まず検討すべきは、すでに契約している税理士や会計事務所への協力依頼です。彼らは月次処理や決算支援に関与しているため、会社の経理の流れをある程度理解しており、即座に一定範囲の業務を代行することが可能です。

たとえば、次のような対応が期待できます。

  • 前月までの会計データをもとに、給与計算や仕訳処理を代行
  • 振込に必要な支払データを作成し、経営者が承認して実行するフローの構築
  • 売上・経費の内容を電話やメールで確認しながら記帳対応
  • 納税に関するスケジュールの再調整・助言

重要なのは、税理士等に「手伝ってほしい内容」を具体的に相談することです。「何をいつまでに、どのようにやってほしいか」を明確にすることで、スムーズに協力を得られる可能性が高まります。

ただし、税理士事務所は本来、記帳チェック・申告・税務相談が中心業務です。経理の日常業務(請求書の作成や入金確認など)までは対応していない場合も多く、限界がある点には注意が必要です。


バックオフィス代行サービスの利用を検討する

社内リソースが不足しており、税理士や会計事務所だけでは対応しきれないと判断した場合、バックオフィス代行サービスの利用を検討することも必要です。代行サービスでは、経理業務のうち定型的な作業を中心に、広範囲な実務をスピーディーにカバーすることが可能です。

たとえば、以下のような業務が依頼できます。

  • 請求書の発行・郵送・PDF送信の代行
  • 支払一覧の作成と経営者の承認後の実行支援
  • 会計ソフトへの仕訳入力と資料整理
  • 領収書・請求書のデジタル管理と月次レポート作成
  • 労務と連携した給与計算の代行

これらのサービスは、単なる“代行”ではなく、経理業務全体の可視化・標準化・効率化までを視野に入れたサポートを提供しています。結果として、経営者自身が「会社のお金の流れ」をより深く理解できるようになることも大きなメリットです。

また、外部の専門家が関与することで、属人化していた経理業務が「仕組み」として整理され、今後の再発防止にもつながります。スポットでの対応から始めて、ゆくゆくは経理全体のアウトソーシングへと移行する企業も少なくありません。

短期的には人手不足をカバーする手段として、長期的には業務改革の一手として、バックオフィス代行は非常に有効な選択肢となります。


中長期的には、経理業務の属人化を解消する体制づくりを行う

経理担当者の突然の退職を乗り越え、一時的な混乱を収めた後に、経営者が真っ先に取り組むべき課題があります。それが、経理業務の属人化の解消です。

経理という仕事は専門性が高く、会社のお金を扱うという性質上、特定の社員に任せきりになってしまう傾向があります。結果として、その社員がいなくなった瞬間に、業務が完全にストップしてしまう。これは組織の脆弱性を意味しており、今後の経営にとって大きなリスクです。

この章では、経理業務を「人に頼らず、仕組みで動かす」ための具体的なステップについて解説します。


マニュアル整備と業務フローの共有を徹底する

属人化を解消するための第一歩は、業務を言語化・文書化することです。

担当者本人しか分からない「暗黙知」のままでは、誰かが業務を引き継ぐことはできません。そこで必要なのが、業務マニュアルや業務フロー図の整備です。誰が見ても同じように業務が進められる状態を目指すことで、担当者の不在が即混乱につながる事態を避けることができます。

例えば、次のような情報を整理しましょう。

  • 請求書はどのタイミングで、誰に、どの形式で発行するか
  • 支払処理の承認フローと、振込までの手順
  • 給与計算に必要な勤怠情報の収集方法
  • 使用している会計ソフトへの入力ルール
  • 社会保険や税金の納付手続きのタイミングと方法

このように、業務の一連の流れをマニュアルとして整備することで、急な人の入れ替えや外注化にも柔軟に対応できるようになります。

また、マニュアルは一度作って終わりではなく、定期的に更新しながら運用していくことが大切です。会社の成長や業務内容の変化に応じて、マニュアルをアップデートし続ける文化を社内に根づかせることで、持続可能なバックオフィス体制が整っていきます。


経理業務の外注化やCOO代行の導入を本格検討する

経理業務を仕組み化する一方で、外部の専門家の力を積極的に取り入れることも、属人化を防ぐ重要な選択肢です。中でも有効なのが、経理業務のアウトソーシングCOO代行サービスの導入です。

中小企業においては、経理の専門人材を内部に常時確保するのはコスト面でも人材確保の面でも難しい現実があります。そこで、信頼できるバックオフィス代行会社に業務を外注することで、一定水準以上の正確性とスピードを維持しながら、安定的な業務運用が実現します。

アウトソーシングの対象としては、以下のような業務があります。

  • 毎月の記帳業務(仕訳入力)
  • 請求書の発行と送付、売掛金管理
  • 支払業務の一覧化と実行支援
  • 給与計算と年末調整
  • 税理士や社労士との情報連携サポート

さらに、COO代行を導入すれば、単なる作業の代行だけでなく、経理全体の設計や内部統制の強化、部門間の連携体制の再構築まで支援を受けることができます。こうした「業務の仕組みそのもの」を外部のプロフェッショナルとともに見直していくことで、経営基盤が格段に強化されます。

社内の人員リソースだけでは限界がある中小企業にとって、外注は単なる「人手の補充」ではなく、「業務品質の担保」かつ「経営の効率化戦略」として活用できる、大きな可能性を秘めた選択肢です。


採用よりも「仕組み」と「継続性」に投資する視点を持つ

経理担当者が辞めたとき、最もありがちな対応策は「とにかく次の人を採用する」ことです。確かに、一見それがもっともシンプルな解決策に思えるかもしれません。しかし、その選択が再び属人化を招く可能性があることを忘れてはいけません。

新しい担当者を雇っても、その人が退職したらまた同じ問題が起きます。むしろ、人の交代に左右されないように、再現性のある仕組みと業務プロセスを整備することの方が、長期的なコストパフォーマンスも高く、経営の安定性にもつながります。

そのために必要なのは、「人材」ではなく「体制」への投資です。

  • クラウド会計やワークフローシステムの導入
  • 外注化によるプロセスの明確化と業務の分散
  • 月次の財務報告の仕組み化による経営判断の迅速化
  • 担当者が交代しても継続できる業務フローの設計

これらは一朝一夕に実現できるものではありませんが、一度整えてしまえば、会社の基盤が安定し、経営者がより本業に集中できる環境が整います。繰り返される退職トラブルを未然に防ぐためにも、採用を第一に考えるのではなく、業務そのものの在り方を見直す視点が求められます。

経理担当者の退職を、経営基盤を見直す好機とポジティブに捉える

経理担当者が突然辞めてしまう──中小企業の経営にとっては、避けがたいリスクであり、大きな不安を引き起こす出来事です。請求処理、支払い、給与計算、税金の納付……いずれも事業継続に欠かせない業務ばかりであり、滞れば社内外に対して信頼性を欠く影響を与えることになります。

けれども、この出来事は同時に、会社経営の屋台骨であるバックオフィスを見直す絶好のタイミングでもあります。長年手を付けられなかったであろう経理業務の棚卸しを行い、担当者に依存した体制を見直し、より再現性と透明性の高い業務運用を構築するチャンスとして捉えることができます。

突然の退職に際して、まず必要なのは、業務の棚卸しと優先順位の明確化です。何を止めてはならず、どこから手をつけるべきか。それを冷静に判断し、限られた社内リソースと外部パートナーの力を適切に組み合わせながら、緊急対応を進めていくことが大切です。

特に、給与の支払いや請求処理といった「お金の流れ」に関する業務については、社内外の信頼を維持するためにも、最優先で対応しなければなりません。税理士や会計事務所、あるいは経理代行会社など、すでに関係のある外部専門家に声をかけ、すぐに業務の一部を委託できる体制を整えることが現実的な対応策です。

短期的な混乱を乗り切った後は、同じ問題が再発しないよう、中長期的な体制構築に取り組む必要があります。業務マニュアルの整備、情報の共有、業務の見える化、そして属人化の解消。これらを実現するためには、経理という業務の本質を「人に任せる仕事」ではなく、「会社全体で回す仕組み」として再設計することが不可欠です。

その中で、バックオフィス代行やCOO代行といった外部の専門的なリソースを活用することも、有効な手段となります。こうした外部サービスは、単なる作業代行ではなく、企業にとって最適な経理体制を構築するパートナーであり、持続的な経営体制を支える重要な存在となり得ます。

また、経営者として重要なのは、「経理を任せること」と「経理を理解すること」は別であるという認識を持つことです。全業務を自分で処理する必要はありませんが、経理の全体像を把握し、どの業務が会社の信用や資金繰りに直結しているのかを理解しておくことは、経営判断の土台として不可欠です。

属人化した経理体制を見直し、誰が辞めても機能し続ける業務運用を構築する。これは、今後の組織づくりや人材戦略にも通じる、大きな意味を持つ改革の第一歩です。危機を機会に変える視点を持つことができれば、経理担当者の退職は単なるマイナスではなく、企業の成長を支えるターニングポイントになり得ます。

これからの時代、経理を「一人の担当者が頑張る仕事」として捉えるのではなく、「仕組みと体制で支える経営基盤」として設計していくことが重要です。中小企業であっても、業務の標準化・効率化・外部連携は十分に実現可能です。そしてそれは、業績の安定化や成長スピードにも直結していきます。

突発的な退職や人材の流動は、どの企業でも起こり得るものです。だからこそ、いざという時に慌てないために、今からできる備えを始めていきましょう。自社の経理体制を見直し、必要に応じて外部の専門家の力を借りながら、「人に依存しない、仕組みで動く会社づくり」を進めていくことが、これからの中小企業経営者に求められる新しいスタンダードです。

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