社長の時間を奪う“経理の二度手間”をなくす仕組みづくり

経営者にとって、最も貴重な経営資源は「時間」です。営業活動、新規顧客の開拓、人材育成、金融機関との交渉…。社長が関わらなければ前に進まない仕事は数多くあります。ところが現実には、経理業務に追われて「時間が吸い取られていく」感覚を覚えている方も少なくありません。
特に深刻なのが「二度手間」です。たとえば領収書の処理。経理担当者から確認を受け、内容を説明したと思ったら、月末に再度同じ質問が飛んでくる。請求書を承認したはずなのに、再度確認依頼が届く。入力や承認がバラバラに行われることで、同じ書類に何度も関与せざるを得ない状況が生まれてしまいます。
この積み重ねは大きな時間の損失となります。中小企業庁の調査でも、バックオフィス業務に週10時間以上の時間を費やしている経営者は約4割もいるようです。一年間の時間で換算すると、実に500時間近くを経理などの間接業務に奪われていることになります。本来であれば経営判断や顧客対応に投じるべき時間が、書類の確認や説明に流れてしまっているのです。
では、なぜ経理に「二度手間」が発生するのでしょうか。その要因を整理すると、大きく三つに分けられます。
経理の二度手間が生まれる原因とは
社長への確認依存が業務を停滞させる
経理担当者が社長に過度に依存している状態が、二度手間の大きな原因です。担当者が判断できるはずの支出や会計仕訳でも「念のため社長に確認」となり、社長の机に書類が戻ってきます。
なぜそうなるのか。その背景には「社長しか分からない情報」が散在していることがあります。交際費か会議費かの判断、取引先のプロジェクト名の確認など、伝言ゲームとなる業務フローのどこかで情報が不足していくため、都度社長に聞かざるを得ないのです。
たとえば、ある建設業の社長は毎週のように経理担当者から「この請求書はどの現場ですか?」と問われ、その都度説明していました。結果として同じ書類に2度も3度も関与しなければならず、それ以外の作業が停滞していました。
つまり「社長にしか分からない」という状態が続く限り、経理の二度手間は解消されません。
紙やExcel中心の運用がミスと重複作業を招く
次に問題となるのは、紙やExcelを中心とした旧来型の運用です。紙やExcelは確認と入力の工程を何重にも発生させ、二度手間の温床となります。
紙の領収書や請求書であれば、まず担当者が確認し、次に社長が承認し、さらに会計ソフトへ入力する必要があります。途中で金額が読みにくかったり、記載漏れがあったりすると、再度確認のやり取りが発生します。Excelでも同様です。部署ごとにフォーマットが違えば、最終的に一つのデータにまとめる際に整形や再入力が求められます。
例えば、ある企業では経費精算を紙伝票で運用していたため、承認までに平均2週間を要していました。途中で金額の誤りが見つかると、申請者に差し戻し、再提出を受けて再度承認し…という無限ループに。結果として社長も複数回同じ伝票を目にする羽目になっていました。
このように、紙やExcel中心の運用は確認や入力の工程を増やし、二度手間を加速させます。
業務フローが属人化し仕組み化されていない
三つ目の要因は、経理業務が属人化し、仕組み化されていないことです。ルールや手順が明文化されていない組織では、担当者によって処理方法がバラバラになり、その修正に社長が巻き込まれます。
理由は明確です。誰がどのタイミングで何をすべきかが決まっていないため、判断が人に依存し、最終的に「社長に聞く」流れに収束するからです。さらに、担当者が退職したり異動した場合には、ノウハウが引き継がれず、再び確認や修正のやり取りが増えます。
たとえば、ある卸売業の企業では「請求書の支払い基準」が人によって異なっており、ある担当者は翌月末払い、別の担当者は当月末払いとして処理していました。その結果、支払日が重複して資金繰りに狂いが生じ、社長が最終的に全件を再確認せざるを得ない事態になっていました。
つまり、業務フローの属人化は二度手間だけでなく、経営リスクをも増大させるのです。
このように、社長への確認依存、紙やExcelの運用、属人化した業務フロー。これら三つが複合的に絡み合い、経理における二度手間を生み出しています。では、これらを解消し、社長の時間を取り戻すためにはどうすればよいのでしょうか。次の章では、二度手間を減らすための具体的な仕組みづくりの基本戦略を解説します。
二度手間を減らす仕組みづくりの基本戦略
経理の二度手間は、担当者の努力や注意だけで解決できるものではありません。根本的解決には「仕組み」を整えることが必要です。ここでは特に効果が高いと思われる三つの戦略を紹介します。
入力・承認を一元化するクラウドシステムの活用
クラウド会計や経費精算システムの導入は、二度手間を劇的に減らします。理由は、入力から承認、仕訳までを一つのフローに統合できるからです。
従来のように紙で提出してExcelに転記し、さらに会計ソフトに再入力するプロセスがなくなります。経費を申請した時点で自動仕訳が生成され、承認と同時に会計データへ反映される仕組みを構築すれば、重複作業や確認依頼が大幅に減ります。
例えば、ある企業では、クラウド経費精算ツールを導入したことで、月末の経費処理時間が従来の3分の1に短縮されました。結果として社長が確認する案件も大幅に減り、本業への集中が可能になったのです。
経理業務の標準化とマニュアル整備
次に重要なのは、業務手順を標準化し、マニュアルとして整備することです。「誰がやっても同じ結果になる」状態をつくることで、確認依頼ややり直しが激減します。
なぜかというと、経理業務には判断の余地が多く残されている場合が多いからです。会計仕訳の勘定科目や支払期限の取り扱いが担当者ごとに異なると、社長が最終判断を下さざるを得なくなります。これを防ぐには、ルールを明確化し、チェックリストやフローチャートに落とし込むことが効果的です。
バックオフィス代行で仕組みを外部化する
三つ目の戦略は、バックオフィス代行の活用です。端的に言えば、専門家に業務を委託することで、二度手間の根本原因を外部に移すことができます。
理由は、プロの代行業者はすでに標準化された仕組みと専門知識を持っているからです。社長が確認しなくても処理が統一されて完結し、必要な情報だけがレポートとして提供されます。さらに、クラウドツールとの連携も標準化されているため、導入から運用までスムーズに移行できます。
たとえば、バックオフィス代行を導入した小売業の企業では、支払承認のプロセスが代行業者に移管され、社長が関与するのは最終的な承認だけになりました。その結果、承認作業にかかる時間は従来の5分の1に短縮され、経営判断に充てられる時間が増えたのです。
以上の三つの戦略を組み合わせることで、経理の二度手間は大幅に減らせます。次に紹介するのは、実際にこれらの仕組みを導入した企業の事例です。理論だけでなく、実務でどのような成果が得られているのかを具体的に見ていきましょう。
社長の時間を守る経理効率化の実践例
経理の二度手間をなくすための基本戦略は理解できても、「実際にどのように導入されて成果が出ているのか」を知ることは非常に重要です。ここでは、実際に効率化の仕組みを導入した企業の事例を三つ紹介します。
経費精算のワークフローをオンライン化した事例
経費精算をオンライン化するだけで社長の確認作業は大幅に減ります。理由は、入力から承認までの流れがシステムで一元管理されるからです。
例えば、ある広告代理店では従来、社員が紙の領収書を添付し、経理担当者がExcelへ入力。その後、社長の承認印を得る流れでした。結果として同じ領収書を社長が何度も確認することになり、1件あたり数分のロスが積み重なっていました。
クラウド型の経費精算システムを導入した後は、社員がスマホで領収書を撮影して申請、システムが自動仕訳し、承認もオンラインで完結する仕組みを構築しました。結果、社長が目を通すのは金額の大きい案件だけとなり、確認工数は半分以下に減少。月末処理も数日早く完了するようになったのです。
支払承認を代行に移管して意思決定を迅速化した事例
次に紹介するのは、支払承認のフローを代行業者に任せた事例です。代行業者に任せることで社長の意思決定は「最終判断」だけに絞られ、経営判断のスピードが向上しました。
ある小売業の社長は、毎月数十件の支払い依頼を確認していました。金額や勘定科目に誤りがあると差し戻し、再度承認依頼が届くという二度手間が常態化していたのです。そこでバックオフィス代行を導入し、支払伝票のチェックや仕訳確認をすべて外部に移管しました。
その結果、社長が確認するのは「支払総額」と「重要な取引」のみ。確認に要する時間は従来の10分の1に短縮され、浮いた時間を営業戦略の立案や新規投資案件の検討に充てられるようになりました。
COO代行によって数字をリアルタイムで把握できるようになった事例
三つ目の事例は、経理だけでなく経営管理全体を支援する「COO代行」を活用したケースです。数字をリアルタイムで把握できる環境が整い、社長が経理の細部に関与する必要がなくなりました。
ある製造業の社長は、毎月の試算表が完成するのが翌々月という状況に不満を抱えていました。経理担当者がデータをまとめるのに時間がかかり、その過程で社長が何度も確認を求められていたからです。そこでCOO代行を導入し、クラウド会計とダッシュボードを組み合わせた仕組みを構築しました。
結果として、売上・利益・資金繰りの状況が日次で把握できるようになり、経理の確認依頼はゼロに。さらに、数字に基づいた経営判断が即座にできるようになり、経営スピードそのものが向上しました。
経理の二度手間をなくし、社長の時間を経営に取り戻す
経理の二度手間は「仕組みの欠如」から生まれます。社長への確認依存、紙やExcel中心の運用、属人化したフロー。これらを放置すれば、社長の時間は奪われ続け、経営判断は遅れ、会社の成長にもブレーキがかかります。
一方で、クラウドシステムの導入、業務の標準化、バックオフィスやCOO代行の活用といった仕組みを整えれば、経理業務は二度手間から解放され、むしろ経営を支える武器へと変わります。
社長の時間は会社にとって最大の経営資源です。その時間を経理に奪われるのではなく、未来を描くために使う。そのためには「二度手間ゼロの経理体制」を整えることが重要です。今こそ、自社の仕組みを見直し、社長の時間を取り戻す経理改革に着手してみてはいかがでしょうか。