記帳代行を依頼する前に確認すべき5つのポイント

経理業務に追われ、本来の経営判断や営業活動に十分な時間を割けていない——。そんな課題を抱える中小企業は少なくありません。特に記帳業務は、煩雑かつ専門的で、少しのミスが会社全体の信頼や資金繰りに影響を与える可能性があります。
そのような背景から、「記帳代行」を導入しようと検討する経営者が増えています。とはいえ、代行サービスを利用することに不安を感じていたり、どの業者を選べばよいか判断がつかなかったりするのも事実です。
この記事では、これから記帳代行サービスの導入を検討している経営者の方へ向けて、依頼前に確認すべき5つのポイントを解説します。経理の外注化によるメリットやリスク、適切な業者の見極め方、導入までの流れまで、実務視点で網羅的にご紹介いたします。失敗しない選び方を知り、自社にとって最善の判断をしていただくための一助になれば幸いです。
記帳代行サービスの基本を理解する
記帳代行の導入を成功させるためには、まずその役割や仕組みを正しく理解することが不可欠です。本章では、「そもそも記帳代行とは何か?」という基本的なことから、その種類、そして類似サービスとの違いまでを解説します。
記帳代行とは何か?業務範囲とメリットを明確に理解する
記帳代行とは、企業の日々の取引を会計帳簿に記録する業務を、外部の専門業者に委託することです。
多くの企業では、現金出納帳や預金出納帳の記録、請求書・領収書の整理、仕訳帳や総勘定元帳の作成まで、すべて社内で対応しています。しかし、これらの作業は非常に手間がかかるうえ、会計知識を必要とするため、ミスや属人化が起こりやすい業務でもあります。
そこで、記帳業務を外部に依頼することで、以下のようなメリットが得られます:
- 業務負担の軽減
- ミスや漏れの削減
- 専門家による正確な帳簿作成
- 経営分析に使えるデータの可視化
たとえば、売上1億円規模の小売業者が記帳代行を導入したところ、毎月20時間かかっていた作業時間が2時間に削減され、経営者が顧客対応や商品開発に集中できるようになった事例もあります。
このように、記帳代行は「単なる経費削減手段」ではなく、「経営の生産性向上」にもつながる重要な施策なのです。
次に、どのような種類の代行サービスがあるのかを見ていきましょう。
税理士・会計事務所・クラウド型などの記帳代行の違い
記帳代行業者には大きく分けて3つのタイプがあります。
- 税理士事務所・会計事務所系
→ 専門性が高く、申告や税務相談まで一貫して依頼可能。 - 記帳代行専門業者(バックオフィス代行会社)
→ 記帳に特化しコストパフォーマンスが高い。スピード感にも優れる。 - クラウド記帳サービス(ITベンダー系)
→ 自動化に強く、AIやOCR技術で効率化。正確性のチェックなど、これのみでは業務が完結しづらい。
例えば、創業間もないベンチャー企業であれば、クラウド型の記帳代行を活用してスピード感のある処理を優先した方が良いかもしれません。一方、老舗企業や資産が多い企業では、税理士事務所との一貫した連携が安心材料となるでしょう。
それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社のステージや業種に合ったタイプを選ぶことが肝要です。
経理代行との違いと連携の可能性を把握する
記帳代行は経理代行の一部であり、より広範な業務に対応したサービスとの連携が重要です。
記帳代行は「会計ソフトに仕訳を入力する」業務が中心ですが、経理代行は以下のような業務までカバーします:
- 請求書の発行・管理
- 支払業務の実行
- 給与計算
- 領収書や経費精算の管理
記帳代行だけを依頼しても、結局、請求や支払業務が社内に残ってしまえば、バックオフィス全体の負担は大幅には軽減されません。そこで、最近ではCOO代行や経理全体の統括を含めた「経理DX化支援」をセットで提供する企業も増えています。
つまり、「記帳だけ」ではなく「経理業務全体の流れ」を俯瞰し、部分最適ではなく全体最適を目指すことが、真の業務効率化に繋がるのです。
記帳代行の選び方|失敗しないための5つの確認ポイント
記帳代行は「誰に依頼しても同じ」ではありません。業者ごとに得意分野や対応範囲、品質、価格が大きく異なります。ここでは、失敗しないために導入前に必ず確認しておきたい5つのポイントを、実務的な視点で解説します。
【1】業務範囲と対応レベルが自社のニーズと合っているか
自社が必要としている記帳業務の範囲と、代行業者が提供しているサービス範囲が一致しているかを確認することが最重要です。
理由は、記帳といっても、その範囲は業者によって様々だからです。以下のような違いがあります:
- 仕訳入力のみか、試算表確定まで確認作業を追求してくれるのか
- 経費精算やレシートの分類も行うか(費目等を詳細に入力してくれるかどうか)
- 経営分析ができるほどのレポートを作成してくれるか
例えば、ある製造業の会社では、会計ソフトへの仕訳入力だけでなく、仕訳データを基にした月次推移の財務分析レポートが必要でした。しかし依頼した業者は、入力業務だけしか対応しておらず、別途レポート作成を社内で対応する必要が生じてしまい、かえって負担が増えてしまいました。
このようなミスマッチを防ぐためには、導入前に「どこからどこまでを外注したいのか」を明文化し、それに合致する業者かを確認することが必要です。
この確認が曖昧なままだと、「思ったよりもやってもらえない」という失敗につながりかねません。
次は、もう一つの大きな懸念であるコストについて見ていきましょう。
【2】料金体系が明確で、コストパフォーマンスに納得できるか
料金体系が不明瞭な業者は避けるべきであり、サービス内容と価格のバランスが取れているかを確認しましょう。
理由は、記帳代行の価格は「取引件数」「仕訳数」「業務の範囲」によって大きく変動するからです。また、毎月の固定価格か、変動価格(件数に応じて加算)なのかも業者ごとに違います。
以下のようなポイントをチェックしましょう:
- 初期費用の有無
- 月額料金の構成要素(仕訳数、帳票作成数など)
- オプション料金の発生条件
- 年間契約の必要性の有無や解約時の対応
実際に、ある建設業の経営者が「月額5,000円」という格安業者に依頼したところ、後から「仕訳数超過」「帳票不備の対応」などで追加費用がかさみ、最終的に月額40,000円近くになったというケースもあります。
費用の見積もりは、必ず実際の帳票量や取引量をもとに確認し、「見せかけの安さ」に惑わされないようにしましょう。
それでは、次に、記帳の「質」を決める最大の要素である、担当者の能力について確認すべき点を解説します。
【3】担当者の専門性と対応体制に信頼が持てるか
記帳代行の品質は、実際に担当する人材のスキルと経験によって大きく左右されます。
どれだけ会社のパンフレットやホームページが綺麗でも、また、AIである程度自動化できるとなっても、記帳の質を担うのはやはり人間です。ミスのない正確な記帳、スピーディな対応、税理士との連携力などの現場力が問われます。
以下のようなチェック項目を確認しておくと安心です:
- 担当者が簿記資格を持っているか(最低限、日商簿記2級以上)
- 会計ソフトへの精通度(freee、マネーフォワードなど)
- 担当者が固定か、チーム制か(属人化・引き継ぎの対応)
- 月次のレビューやフィードバック体制の有無
たとえば、ある飲食業の企業では、月末の仕入請求書の仕訳処理が毎回複雑になるため、経理経験10年以上の担当者がついている業者を選定した結果、ミスが激減し、月次決算もスムーズになったという事例があります。
価格が安くても、担当者の質が低ければ意味がありません。「誰が対応してくれるのか」は必ず確認しましょう。
次に、記帳業務を外注する上で避けて通れない、情報管理の観点を確認します。
【4】セキュリティ体制と守秘義務に問題がないか
自社の財務データ作成を外部に委託する以上、情報漏洩やデータの紛失に対する不安は拭えません。だからこそ、業者のセキュリティ体制は必ず確認するべき項目です。
以下のような点をチェックしましょう:
- 契約書における秘密保持条項の明記
- データの送受信方法(クラウドか、暗号化されたメールか)
- バックアップ体制と災害対策
- 社内での情報取扱に関する教育体制
実際に、某小売企業では、メールでのデータ送信中に誤送信があり、仕入先の情報が漏洩するトラブルが発生しました。しかし、その業者は秘密保持契約の整備が不十分だったため、責任の所在が曖昧になり、問題の解決が長期化しました。
信頼できる業者は、必ず「情報の取り扱い」について明確なルールを持っており、それを説明してくれるはずです。
そして最後に、今後の経理の効率化やDX化を見据えた「進化する業者」かどうかを確認しましょう。
【5】クラウドやDXへの対応力があるか
これからの記帳代行において、「紙ベース」や「手入力中心」の業者は正直言うと時代遅れです。業務効率を最大化するためには、クラウド会計ソフトやAI技術に対応しているかが重要な判断基準となります。
具体的には、次のような機能・対応力が求められます:
- 会計ソフト(freee、マネーフォワード等)との連携実績
- レシートのOCR読取や自動仕訳機能の活用
- Google DriveやDropboxなどクラウド共有方法の活用
- 業務フローの改善提案力(帳票の電子化など)
たとえば、ある士業事務所では、従来Excelで記録していた売上帳を、freeeに完全移行し、記帳代行業者にリアルタイムで確認してもらえる体制に変えたところ、入力ミスが激減し、クライアント対応時間も2割短縮されたとのことです。
「いま問題なく対応できる」だけでなく、「これからも進化し続けられるパートナーか」を意識して選びましょう。
導入前のチェックリストと社内準備
記帳代行をスムーズに導入するためには、社内の現状を正しく把握し、準備を整えることが欠かせません。本章では、導入に向けて事前に確認すべきポイントと、トラブルを避けるための準備方法を解説します。
自社の経理業務の棚卸と外注する範囲の整理
まず最初に行うべきは、「今、社内でどんな経理業務を行っているのか」の棚卸しです。
理由は、自社の業務を正確に把握していないと、どこまでを外注すべきか判断できず、記帳代行導入後に「これは対応してくれないのか」という行き違いが発生するからです。
棚卸しの手順は次の通りです:
- 月次・日次で発生している経理業務を書き出す
- それぞれの業務にかかっている時間を見積もる
- 社内でしかできない業務(現金管理・社内稟議など)を切り分ける
- 外注したい範囲を明文化する(例:仕訳入力とレポート作成まで)
たとえば、ある卸売業の企業では、請求書発行・入金確認・支払い業務・経費精算・記帳・レポート作成まで、経理担当者が1人で対応していました。この業務をすべて洗い出し、記帳とレポート作成だけを代行業者に委託したことで、業務負荷を半減させることができました。
業務の棚卸は、外注する業者との正確な連携の基盤となります。怠らずに丁寧に行いましょう。
続いて、なぜ記帳代行を導入するのか、目的を明確にすることが大切です。
現在の課題と代行サービスに期待する効果を明確にする
記帳代行を単なる「外注化」ではなく、「経営改善の手段」として活用するためには、明確な目的意識が必要です。
なぜなら、目的が曖昧なまま依頼をすると、効果が実感しにくく、社内で不満が出たり、代行業者との関係性がうまく築けなかったりするからです。
以下のような「目的の見える化」を行いましょう:
- 現在の課題(例:仕訳ミスが多い、経理担当が退職した、社内会議等の締切に間に合わない)
- 記帳代行に求める成果(例:正確な帳簿、早い月次締め、コスト削減)
- 数値目標(例:月次処理時間を30%削減、経理や総務の残業ゼロ化)
たとえば、IT系企業で「月次締めが毎月翌月末までずれ込む」という課題がありましたが、記帳代行導入によって、翌月15日には帳簿が完成するようになり、キャッシュフローの把握や経営分析の時期が大幅に改善されました。
目的を明確に持つことで、業者選定や契約後の評価がしやすくなります。
次に、実際に業者と契約を結び運用を開始する際に、見落としがちなポイントを見ていきます。
記帳代行業者との契約・運用前に確認すべき実務事項
記帳代行の契約前後には、トラブルを避けるために押さえておくべき実務上のポイントがあります。
以下は、よくあるトラブルとその回避方法です:
トラブル内容 | 事前対応策 |
業務の範囲に誤解があった | 契約書に具体的な作業内容を明記する |
データの送付方法が非効率 | Dropbox、Google Drive、専用システムなど送受信方法を事前に決定する |
毎月の締め切りが不明確 | 受け渡し日・納品日をカレンダーで明文化 |
担当者が頻繁に変わる | 担当固定制かチーム制か確認し、責任者を明確にする |
会計ソフトの整合性が取れない | 自社が使用している会計ソフトを変更せず使用できるかを確認する |
さらに、契約書には以下の内容を盛り込むことが望ましいです:
- 守秘義務と情報管理に関する条項
- 業務遂行上の責任範囲
- 問題発生時の対応フロー
- 解約の条件と手続き方法
たとえば、ある不動産会社では、契約時に締切日を明記しなかったため、毎月の納品が遅れ、税理士との連携に支障が出るという事態になりました。しかし、契約を見直し「毎月10日までに資料提供、20日までに納品」と定めたことで、その後はスムーズに業務が回るようになりました。
導入後のトラブルを防ぐには、準備段階での「合意形成」と「文書化」が鍵となります。
記帳代行を成功させるための考え方
記帳代行は、単なる「面倒な作業の外注」ではありません。それは、企業経営の透明性とスピードを高め、経営者が本来果たすべき意思決定に専念するための「戦略的な投資」です。では、記帳代行を本当の意味で成功させるには、どのような姿勢や考え方が必要なのでしょうか?
本章では、導入後に成果を最大化するための考え方と行動指針をお伝えします。
成功する企業は「丸投げしない」姿勢を持っている
記帳代行を成功させている企業は、共通して「任せきりにしない」という姿勢を持っています。
確かに記帳業務そのものは外注します。しかし、帳簿の内容を「経営者自身が理解しようとする姿勢」があるかどうかで、活用の深さは大きく異なります。たとえば、月次で試算表が上がってきても、その数字を一度も見ずに、銀行や税理士にただ提出するだけでは、何も改善は起きません。
- 売上総利益は前年と比べてどうか
- 固定費の構成は変わっていないか
- 受取手形や売掛金の回収状況は適切か 等々
こうした視点をもって帳簿に目を通すだけで、記帳代行の価値は数倍にもなります。経理のプロでなくても、基本的な見方を理解するだけで「経営に活かせる数字」へと変わるのです。
外注したからこそ、経営者は「数字を経営に活かす」側に回らなければなりません。
良いパートナーは「共に育つ」存在である
理想的な記帳代行業者は、単なる業務処理の請負先ではなく、会社の成長を支える“経営の右腕”として機能する存在です。
良いパートナーは以下のような特長を持ちます:
- 成長ステージに合わせて柔軟に対応範囲を変えてくれる
- 法改正やクラウド会計などの最新動向を教えてくれる
- ミスや課題を指摘するだけでなく、改善案を提案してくれる
たとえば、あるスタートアップ企業では、創業初期から記帳代行を活用しており、年商が数千万円から3億円へと成長する過程で、業務フローも月次決算の精度も大きく変わっていきました。その都度、業者と一緒に業務の見直しを図ることで、体制を崩すことなく成長を支えることができたのです。
信頼できる記帳代行業者は「ただの代行」ではなく、「継続的なパートナー」です。良い関係性を育てるという視点を持ちましょう。
バックオフィスの質が、企業価値を左右する
経理・記帳業務の質は、社外からの評価にも直結します。
- 銀行融資の審査資料が整っているかどうか
- 税務調査での信頼性の高い記帳がされているか
- M&Aや出資を受ける際の財務資料が正確かどうか
これらはすべて、「正しい記帳」が土台になります。帳簿の信頼性が損なわれれば、どれだけ良いビジネスをしていても、評価されません。反対に、毎月の試算表や月次資料が整っていれば、「この会社はガバナンスがしっかりしている」と判断され、金融機関・投資家からの信頼を得やすくなります。
つまり、記帳代行は「経営の裏側」を支える仕事であり、その品質が企業の信用と未来を左右するのです。
どんなに素晴らしい業者と契約しても、目的や期待値が曖昧だったり、社内準備が不十分であれば、その効果は発揮されません。一方で、丁寧な準備と前向きな姿勢があれば、記帳代行は経営の力強い味方になります。
「経理の効率化」はゴールではありません。それは「より良い経営」のスタートラインです。
本記事が、あなたの会社にとって最適なパートナー選びと、業務改善の一助となれば幸いです。