今の借入額は多すぎ?返済余力をチェックする方法

中小企業の経営者にとって、金融機関からの借入れは避けて通れないテーマです。
事業を成長させるためには、自己資金だけでなく融資をうまく活用することが必要になります。しかし一方で、借入額が増えるたびに「返済は本当に大丈夫だろうか」「将来の資金繰りが苦しくならないだろうか」という不安も頭をよぎります。

経営者の本音を探れば、そこには二つの相反する感情があります。ひとつは「借りすぎて返済に追われるのは避けたい」という慎重な気持ち。もうひとつは「借りられるときに借りておきたい」「手元資金を厚くして安心したい」という防衛的な気持ちです。特に製造業や建設業、小売・卸売業といった資金繰りに波がある業種では、どちらの思いも強く抱かれがちです。

実際、金融機関から「御社ならあと○千万円は借りられますよ」と言われれば安心する一方で、返済表を見て月々の返済額に胃が重くなる…。そんなジレンマに直面している経営者は少なくありません。借入は経営を支える道具であるはずなのに、不安のタネにもなるのです。

そこで重要になるのが「返済余力」という考え方です。会社の返済余力を把握できれば、借りすぎかどうかを客観的に判断できます。「なんとなく不安」「大丈夫そう」という感覚に頼るのではなく、財務データに基づいて冷静に判断できるのです。本記事では、その基本となる「返済余力」とは何か、そしてどのようにチェックすべきかを解説していきます。


目次

返済余力とは?借入の妥当性を判断するための基本指標

返済余力とは、簡単に言えば「今の会社の状態だと毎年どれだけ借入金の元本と利息を返済できる力を持っているか」を表すものです。利益やキャッシュフローの水準に対して、返済額が過大ではないかを測る基準となります。金融機関も融資審査やモニタリングにおいて、この返済余力をチェックします。経営者自身も、この視点を持つことで安心して融資計画を立てられるようになります。


返済余力の定義と計算式

返済余力の定義は「税引後利益+減価償却費(非資金費用項目)」が基本となります。これを「元利返済額(元本+利息)」と比較することで、その期の利益から返済可能かどうかを判断できます。計算式にすると次のようになります。

返済余力 = 税引後利益 + 減価償却費 − 元利返済額

例えば、ある会社の税引後利益が1,000万円、減価償却費が500万円、年間返済額が1,200万円だった場合、返済余力は300万円となります。この場合は返済が十分可能と判断できます。しかしもし返済額が1,800万円であれば、返済余力は▲300万円となり、資金繰りに無理が生じている可能性が高いとわかります。

返済余力を把握することは、借入の過不足を測る出発点です。数値で可視化することで、経営者が抱える「借りすぎかもしれない」という不安を具体的に整理できるのです。


返済余力をチェックする目的

返済余力をチェックする目的は、単に銀行に良い印象を与えるためではありません。最大の目的は、会社の資金繰りに無理がないかを見極め、経営の安全性を確保することです。

返済余力を把握していれば、「今は返済額に余裕があるから追加で借りても大丈夫」「もうこれ以上の追加借入は返済負担の方がしんどくなる」といった判断が可能になります。これはまさに、借りすぎによる不安と、手元資金を厚くしたい安心感の板挟み状態を解消するための羅針盤です。

経営者の直感も大切ですが、資金繰りは一度行き詰まると再建には時間がかかります。だからこそ、返済余力を数字で確認しながら借入判断を行うことが重要なのです。


銀行が重視する返済余力の水準

金融機関は融資審査や継続的なモニタリングで、返済余力を必ずと言っていいほどチェックしています。一般的には、年間の返済余力が実際の返済額を上回っているかどうかが基本的な基準です。

例えば「返済余力 ÷ 元利返済額」で計算される比率(DSCR:Debt Service Coverage Ratio)が1.0以上であれば、返済可能と判断されます。1.2〜1.5程度あれば「余裕がある」と評価されるケースが多いです。逆に1.0を下回る場合、追加融資が難しくなったり、借入条件の見直しを求められる可能性があります。

ここで重要なのは、銀行も数字で判断しているという事実です。経営者の「感覚的な安心感」や「まだいけるだろう」という思い込みは、金融機関の評価には直結しません。数字で裏づけられた返済余力があってこそ、安心して融資制度を活用できるのです。

つまり、返済余力を確認することは、銀行に信頼されるためだけでなく、自社の資金繰りを守るための重要な判断指標です。そして次に重要になるのは、自社の借入額が多すぎるかどうかを実際に数字で判断する方法です。

自社の借入額が多すぎるかどうかを確認する方法

借入は会社を支える重要な資金調達手段ですが、「多すぎるかどうか」を判断するのは簡単ではありません。返済余力の考え方を理解しても、実際に自社に当てはめる際には複数の観点から分析する必要があります。ここでは、売上・利益、キャッシュフロー、そして借入依存度という3つの切り口から、借入の妥当性をチェックする方法を解説します。


売上・利益とのバランスで確認する

借入額が売上や利益の規模と比べて大きすぎると、返済の負担が経営状況を圧迫します。そこでまず確認すべきは、「年間返済額が営業利益の何割を占めているか」です。

例えば、営業利益が2,000万円の会社で年間返済額が1,500万円であれば、利益の大部分が返済に消えてしまい、設備投資や内部留保に回す余裕がほとんど残りません。この場合、借入依存度が高く危険な水準といえます。一方、返済額が500万円であれば、営業利益に対する返済負担率は25%となり、返済と同時に将来への投資余力も確保できていると判断できます。

利益は景気や事業環境によって変動します。そのため、数値を確認するときは「直近だけでなく過去3年の平均値」で見ることも大切です。好調期だけを基準にすると、返済が固定されているのに利益が落ち込んだ時に資金繰りが一気に厳しくなる可能性があるからです。

このように、売上・利益に対する返済額の割合を確認することは、自社の借入の程度が健全かどうかを判断するための第一歩となります。


キャッシュフローとの比較で確認する

借入の返済原資は利益だけではなく、キャッシュフローで考えることが重要です。利益が出ていても、売掛金の回収が遅れて現金が足りないケースは少なくありません。そこで使われるのが「営業キャッシュフロー」と「返済額」の比較です。

例えば、営業キャッシュフローが1,200万円で、年間返済額が1,000万円の場合、返済後に200万円しか残らず、予期せぬ支出が発生すれば資金ショートに直結するリスクがあります。逆に、営業キャッシュフローが2,500万円で返済額が1,000万円であれば、返済後にも1,500万円残り、資金繰りに余裕があると判断できます。

さらに重要なのは、「借入を増やす前にシミュレーションしてみる」ことです。例えば追加で1,000万円の借入をした場合、毎月いくらの返済が増え、その結果キャッシュフローがどう変化するかを数字で確認します。この習慣を持つだけで、借入の妥当性に対する判断がぐっと正確になります。

資金繰りは最終的に「現預金残高」で決まります。利益や会計上の数字よりも、キャッシュフローを基準に判断することが、健全な借入管理の要となります。


借入依存度を分析する方法

もう一つの視点が「借入依存度」です。これは自己資本と借入金のバランスを見る指標であり、財務の安定性を測るものです。一般的には「有利子負債 ÷ 自己資本」で計算されます。

例えば自己資本が5,000万円で借入金が1億円の場合、借入依存度は200%となります。これは自己資本の2倍の借入(他人資本)を抱えている状態であり、リスクが高いと考えられます。一方で、自己資本5,000万円に対して借入金が3,000万円であれば、依存度は60%であり、相対的に安定した状態といえます。

借入依存度が高すぎると、金融機関からの信用評価が下がり、新規借入が難しくなるだけでなく、金利条件も厳しくなる可能性があります。逆に、適度な借入依存度であれば、銀行から「まだ余力がある」と判断され、資金調達の選択肢を広げられます。

ここで注意したいのは、「業種ごとに許容される水準が違う」という点です。例えば建設業や製造業では比較的借入依存度が高めでも許容される一方で、小売業や卸売業では自己資本比率の高さが重視される傾向があります。業種特性を踏まえて分析することが重要です。


借入が多すぎるかどうかを判断するためには、売上・利益、キャッシュフロー、借入依存度という三つの視点をバランスよく確認することが不可欠です。どれか一つの数字だけでは正しい判断はできません。むしろ複数の指標を照らし合わせることで、より客観的に「今の借入は適正か」を把握できます。そして次のステップは、こうした基本的な確認に加え、さらに専門的な指標を用いて精緻に返済可能性を評価することです。

返済余力をより深く分析するためのアプローチ

売上やキャッシュフローとの比較は、自社の借入状況を大づかみに把握するうえで有効です。しかし、より精緻に返済能力を見極めるためには、専門的な財務指標を用いることが欠かせません。金融機関も実際にこうした指標を重視しており、経営者自身も理解しておくことで、銀行と同じ目線で会社の資金状態を評価できるようになります。ここでは、返済余力を深く分析するための代表的な3つのアプローチを解説します。


DSCR(債務返済能力比率)での評価

DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、返済能力を測るうえで代表的な指標の一つです。計算式は以下の通りです。

DSCR =(税引後利益+減価償却費+支払利息)÷ 元利返済額

この数値が「1」を上回っていれば返済が可能、1.2〜1.5程度あれば十分な余裕があると評価されます。逆に「1」を下回ると、返済額が利益やキャッシュフローを超えてしまっていることを意味し、資金繰りが不安定になるサインです。

例えば、税引後利益800万円、減価償却費400万円、支払利息100万円、年間返済額1,000万円の会社であれば、DSCRは(800+400+100)÷1,000=1.3となり、健全な水準といえます。一方、返済額が1,600万円ならDSCRは0.8となり、資金繰りが既に不安定な状態と判断されます。

銀行は融資判断において、このDSCRでの数値も重視します。経営者自身もこの数値を把握しておけば、「今の借入は適正か」を自信を持って説明でき、交渉においても有利に働きます。


インタレスト・カバレッジ・レシオによる利息負担の分析

借入の返済は元本だけでなく、利息負担も重要です。特に金利が上昇局面にあるときには、利息が資金繰りに与える影響が大きくなります。そこで使われるのが「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」です。

ICR = 営業利益 ÷ 支払利息

一般的には、この数値が3倍程度であれば標準、10倍程度あれば理想的とされます。逆に1倍を下回ると、営業利益で利息を払いきれず、借入依存度が高く、極めて危険な状態にあることを示します。

例えば、営業利益が2,000万円で支払利息が400万円なら、ICRは5倍となり健全です。しかし営業利益が800万円に落ち込み、利息が500万円であれば、ICRは1.6倍に下がり、利息負担の重さが明確になります。

この指標のポイントは、元本返済ではなく「利息だけ」に注目している点です。金利上昇や借入条件の変更が資金繰りにどう影響するかを見極めるうえで、重要な分析となります。


キャッシュフロー計算書を用いた長期的な返済可能性の評価

短期的な返済能力だけでなく、長期的に借入を返済していけるかどうかを確認するためには、キャッシュフロー計算書を活用するのが有効です。特に「営業活動によるキャッシュフロー」と「投資活動によるキャッシュフロー」に注目します。

営業キャッシュフローが安定的にプラスであれば、日常的な返済の原資が確保されていると判断できます。一方で投資キャッシュフローが大きなマイナスで続く場合、返済に必要な現金が投資に吸い取られ、資金繰りが圧迫されている可能性があります。

例えば、営業キャッシュフローが毎年2,000万円プラスで推移している会社であれば、借入返済に十分対応できるでしょう。しかし、営業キャッシュフローが毎年500万円程度しかなく、設備投資でマイナス3,000万円を計上し続けている場合、追加借入でしのいでいる状態である可能性が非常に高いと判断できます。この場合は長期的な返済能力に疑問符がつきます。

キャッシュフロー計算書は、単年度の利益では見えない資金の動きを把握できるため、返済余力を長期的な視点で評価するための強力なツールとなります。


返済余力を基準にすれば借入の安心感が得られる

中小企業の経営者は、「借りすぎると返済がしんどくなるのではないか」という不安感と、「借りられるうちに借りて手元資金を厚くしておきたい」という安心感の狭間で揺れ動きます。その気持ちの板挟みを解消するために必要なのは、感覚ではなく数値に基づいた冷静な判断です。

返済余力を基本に、売上や資金繰り、借入依存度を確認する。そしてさらにDSCRやインタレスト・カバレッジ・レシオ、キャッシュフロー計算書といった指標を用いることで、借入の健全性を多面的に評価できます。

借入は悪ではなく、会社を加速度的に成長させるための重要な手段の一つです。ただし、その妥当性を数字で裏づけられるかどうかで、資金繰りの安心と事業の持続性が左右されます。感覚的な安心ではなく、データに基づいて得た感情こそが、経営者にとっての本当の意味での「安心」なのです。

借入額が多すぎるかどうかを迷ったときは、ぜひ返済余力や各種指標を冷静に確認してみてください。その習慣が、資金繰りの不安を減らし、未来への投資を支える確かな基盤となります。

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